暦年贈与とは

相続対策や相続税対策について、基礎知識を語る教本やサイトは山ほどあるが、その知識をどう使うかにまで言及したものは、そうない。この「相続塾」は、より実践的なレベルで相続・相続税対策の方法を極限にまでわかりやすくお伝えするものである。



令和元年5月に国税庁より公表された贈与税の申告情報では、2018年の申告納税額は 63億7百万円となっており、前年度対比+58.1%と大幅に増加した。


生前贈与は今や当然のようにしている人も多いが、そのなかでも最もポピュラーと言えるのが、「暦年贈与」だ。


暦年贈与とは、毎年1月1日〜12月31日までに贈与を受けた金額が110万円に満ちるまでは贈与税が課税されない仕組みをいう。

(「暦年」とは、こよみの上で決められた「1年」の意味)

ワンポイント

贈与税は贈与を受けたもの(以下、受贈者)が支払う。
受贈者の受けた金額を計算の基にするため、例えば父から100万円、母から100万円の贈与を受けた場合、合わせて200万円の受贈となり、贈与税の対象になる。



暦年贈与は、他の贈与特例とちがって、贈与を受けた金額が年間110万円以内であれば確定申告の必要もない。

現金手渡しや銀行振込などで贈与すればよく、その簡易さのため利用する人は実際に多い。


ただし、この暦年贈与には重要な注意点がある


単純に毎年110万円ちょうどを子や孫に贈与している人がいるが、数年同じことを繰り返した後に、莫大な贈与税を課せられることがあるのだ。


暦年贈与をして、次の世代に資産を遺したり、相続税対策とするためには、それなりの手間が必要になる。

今回は、暦円贈与の注意点を知った上で、その正しい方法をお届けしよう。

よくある生前贈与の事例

まずは、事例見てみよう。


よくある生前贈与の事例


今年で75歳になる大森一茂氏(仮名)は、相続税対策のため、4人の子供に毎年110万円を生前贈与しようと考えた。


これを5年繰り返した場合、ひとりあたり110万円×5年の550万円。
それを4人分で2200万円も相続財産を減らすことができる。


大森氏は、毎年年末になると人数分の現金を用意し、それを4人の子供に分け与えた。


贈与を受けた子供たちは、ありがたくそのお金を受け取ったが、110万円以内であれば贈与税はかからないと安心し、贈与を受けた証拠を何ら残してはいなかった



非常にありがちな事例であると言えるが、実はこの短いなかで注意しなければならない点が4つも出てきている。

赤文字で示したところがそうだ。


何が、問題なのか?


それは、これらが「暦年贈与」ではなく、「定期贈与」に見えてしまうところだ。

「暦年贈与」を「定期贈与」とみなされないための4つの注意点

暦年贈与とよく似た贈与方法に、「定期贈与」というものがある。


定期贈与とは、例えば550万円贈与することを約束し、それを5回に分割して毎年110万円を受贈者に支払うことを言う。

暦年贈与と定期贈与の違い

暦年贈与:毎年独立した110万円の贈与を5回おこなう
定期贈与:550万円という1回の贈与を分割して支払う



仮に定期贈与とみなされた場合、受贈者は550万円をもらう約束をした年に「550万円をもらえる利益」を受けたことになり、その翌年3月15日までに確定申告をしなければならかった。


その際、贈与税は「550万円」に対して課税されるので、
(550万円ー110万円)×30%−65万円=67万円となる。


事例のように4人分であれば、268万円だ。


毎年110万円までは無税と思っていたところに、そのような大金が課税されてしまえば驚くことだろう。


「定期贈与」としてみなされないためには、その贈与が、毎年独立した意思のもとでされたものであると示す必要がある


それでは、事例の赤文字で示した4つの注意点について、具体的な対策をお伝えしよう。

贈与額は毎年一定でない方が良い

毎年110万円という、ある意味キレイな数字を贈与していた場合、暦年贈与ではなく定期贈与に見えても仕方がない。


本来、暦年贈与とは「去年は車の購入費の補助金として90万円贈与した」「今年は孫にお金のかかる時期だから110万円贈与したい」などのように毎年独立した意思のもとでするものだ。


要らぬ誤解を税務署に与えないよう、毎年贈与する金額は一定でない方が良い


またある年は120万円の贈与をし、少額の贈与税を支払うことも、それが暦年贈与であることを示すのに効果があるだろう。

贈与する時期は毎年一定でない方が良い

毎年、年末という同じ時期に高額のお金を支払っているようでは、それを支払期日とした定期贈与に見えなくもない。


これも、毎年独立した意思で贈与していることをアピールするため、贈与する時期は一定でない方が良いだろう。


ある年は夏、ある年は冬という具合だ。

現金払いより銀行振込の方が良い

贈与する金額と時期は毎年一定でない方が良いと言ったが、贈与額を現金で渡していたのでは、どちらの記録も残らない。


そこで利用したいのが銀行振込だ。


受贈者の口座に振込をすれば、金額も時期も通帳に記載され、贈与をいくら、いつしたかの証拠を残すことができる。


たとえ受贈者の通帳を預かっていたとしても、「入金」ではなく「振込」にした方が良い。


振込には1件あたり数百円の手数料がかかってしまうが、入金と違って、受贈者の通帳に誰からの振込であったか名前が記載される為、証拠として優れている。

贈与契約書を残しておくとなお良い

上記3つに加え、暦年贈与であって、定期贈与とみなされないためには、毎年の贈与に関して贈与契約書を残しておくとなお良い


暦年贈与も定期贈与も、立派な贈与契約だ。


本来、贈与契約は、贈与をする側の「贈与をする」という意思と、贈与を受ける側の「贈与を受ける」という意志があれば、口約束でも契約が成立する。


つまり、贈与があったことを書面に残す必要はないのである。


ただし毎年の贈与に関し書面を残しておけば、税務署に「550万円の定期贈与の約束をしたではないか?」と指摘されたときに、毎年独立した暦年贈与であることを主張できる。


贈与契約書は次のようなもので良いだろう。


贈与契約書



贈与者 ◯◯(以下、甲と称する)と、受贈者 △△(以下、乙と称する)は、下記のとおり贈与契約を締結した。


甲は乙に対して現金 1,100,000円を贈与することを約し、乙はこれに承諾した。



令和   年 月 日


贈与者(甲)  住所:
        氏名:◯◯  印


受贈者(乙)  住所:
        氏名:△△  印





毎年贈与するのであれば、金額と日付の欄だけ空欄にしておき、贈与する日に書き加えれば良い。


この贈与契約書と同じ通りの金額と日付で、銀行振込を行うのである。

まとめ

暦年贈与は簡単にできてしまうが、定期贈与とよく似ている。


定期贈与とみなされてしまうと高額な贈与税が課せられてしまうので、その贈与が暦年贈与であることの証拠を残しておく必要がある。


キモは、毎年の贈与が、それぞれ独立した意思のもとで行われているということだ。