相続 不動産 売却

相続対策や相続税対策について、基礎知識を語る教本やサイトは山ほどあるが、その知識をどう使うかにまで言及したものは、そうない。この「相続塾」は、より実践的なレベルで相続・相続税対策の方法を極限にまでわかりやすくお伝えするものである。


あなたが相続税を物納で納付しようとしているのなら、それはうまくいかないかもしれない。

2006年のことになるが税制改正による厳格化によって、物納のハードルは大きく跳ね上がった。

下の表は国税庁のホームページの抜粋である。
現在の物納状況を見てもらいたい。


物納申請状況国税庁HPより


申請件数は明らかに少なくなっているのがわかる。
また許可件数に対し、取り下げ件数と却下件数がかなり多いことが見てとれるだろう。

「相続税の納税資金が足りないから、今使っていないあの土地で物納のしよう」

そう考えているのであれば、一度これからする説明を参考にしてみてほしい。

相続財産の中で不動産が多い場合、①「物納」を検討すると同時に、②「生前に売却する」あるいは③「相続開始後に売却する」という方法も検討すべきだ。

今回は、この3つの方法について、それぞれメリットとデメリットを紹介する。

(物納は国債や船舶などでもできるが、今回は、不動産を物納しようとしていることを前提に説明していく。)

物納は却下され、延納を求められる可能性が高い

相続税は現金で「一括納付」することが原則である。

一括納付でも分割による「延納」でも納付が困難な場合にのみ、金銭の納付困難事由その他の要件を満たすことにより、土地等の一定の相続財産を、相続税評価額で納付する「物納」が認められている。

「収益性の低い不動産を物納すれば良い」と簡単に考えている人も多いが、そうはいかない。

他に家賃収入が得られるような不動産があれば、延納が求められるだろう。

また、相続税は何も相続財産の中から支払うものと決められているわけではない。

例えば、相続人がサラリーマンで定期的な収入がある場合、物納が却下される可能性はある。

何にしろ、物納は却下される可能性を十分に考慮した上で、将来の相続に備る必要がある

「物納するか、売却するか」を検討しよう

物納は認可されるためのハードルが高いため、①「物納」に加えて、その不動産を②「生前に売却する」、あるいは③「相続開始後に売却する」という選択肢も考えておく必要がある。

それでは、それぞれのメリットとデメリットを挙げておこう。

物納のメリットとデメリット

メリット
・買い手がつきそうにない土地であっても、要件さえ満たせば、物納することができる。
・物納する不動産の相続税評価額が時価より大きい場合は、売却より有利な価額で納税できる。


デメリット
・遺産分割で揉めているような場合は、物納ができない。
・そもそも物納が認められるための要件が厳しい。



不動産の相続税評価額は、土地は相続税路線価、建物は固定資産税評価額をもとに計算される。

相続税路線価とは

土地に面する道路には、1㎡当たりの価額が設定されており、その価額に面積を乗じたものが、その土地の相続税評価額となる。

路線価

 

この場合、相続税路線価300千円×200㎡=6000万円
(アルファベット「D」は借地権割合)


相続税路線価はこちらのページで確認できる。
(相続税路線価の設定されていない地域では、倍率方式という計算方法が取られる)

固定資産税評価額は、毎年の固定資産税のもとになっているものだから、わかりやすいだろう。

物納が可能である場合、買い手がつきそうにない土地であっても、上記計算による価額で納付したことになる。

生前に売却するメリットとデメリット

メリット
・不動産を分けやすい現金にすることで、遺産分割で揉めにくくなる。


デメリット
・相続財産が増加し、相続税の負担が増える可能性がある。



物納が却下されてしまうことを考え、生前に売却してしまうのも、ひとつの答えだろう。

ただし、不動産売却時には譲渡税が課せられ、相続時にも売却して手に入れた現金に対して相続税が課せられる。

また不動産の価額は、時価>相続税評価額となることが多く、生前に売ってしまうことでかえって相続財産が増え、税負担が重くなる可能性もある。

この方法をとる場合、売却金を暦年贈与の制度を利用して生前贈与していくことも検討すべきだろう。

あるいは、売却資金を原資に生命保険に加入すれば、受け取った保険金のうち「法定相続人の数×500万円」までは相続税が非課税になる。

ただ売却するのではなく、他の制度を利用することを前提に売却するのだ。

相続開始後に売却するメリットとデメリット

メリット
・取得費加算の特例を使うことができ、譲渡税の負担を抑えて現金化できる可能性がある。


デメリット
・納税資金確保のために慌てて売却しようとすると、安く買い叩かれる恐れがある。
・遺産分割で揉めて分割できない場合、売却できない。



前に説明したとおり、不動産を売却した場合、譲渡税が課せられる。

計算方法は次のとおりだ。

譲渡税=(売却価額ー取得費ー譲渡費用)×税率


取得費とは、その不動産の当時の購入代金のこと。
譲渡費用とは、その不動産を売るときに必要だった仲介手数料など、諸々の費用を指す。

相続開始後に不動産を売却した場合、取得費、譲渡費用に加え、すでに支払った相続税の一部も差し引くことができ、これを取得費加算の特例という。

譲渡税=(売却価額ー取得費ー譲渡費用ー支払った相続税の一部)×税率



これにより、生前に売却するよりも税負担が軽くなることが多いのだ。

ただし、取得費加算の特例を適用するには時限がある。

その財産を、相続開始のあった日の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までに譲渡していること。

このため、じっくりと売主を探すことができず、安く買い叩かれてしまう可能性もあるので注意したい。